「神経型PASドメインタンパク質」の版間の差分

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==神経型PASドメインタンパク質とは==
==神経型PASドメインタンパク質とは==
 神経型PASドメインタンパク質 (neuronal PAS domain protein; NPAS)ファミリーは、進化的に保存された[[転写因子]]の一群であり、その構造的特徴としてN末端側に[[塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックスドメイン|塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス(basic Helix-Loop-Helix, bHLH)ドメイン]]、それに続いて2つの[[Per-ARNT-Simドメイン|Per-ARNT-Sim (PAS)ドメイン]]を持つ<ref name=Gu2000><pubmed>10836146</pubmed></ref>('''図1''')。これらのタンパク質は、環境中の化学物質応答([[ダイオキシン]]応答における[[aryl hydrocarbon receptor]]; [[AhR]])、細胞の低酸素応答([[低酸素応答因子]], [[hypoxia-inducible factor]], [[HIF]])、[[概日リズム]]の制御([[circadian locomotor output cycles kaput]], [[CLOCK]]), [[brain and muscle ARNT-like 1]], [[BMAL1]])、[[神経発生]]など、多様な生物学的プロセスを制御する広範な[[bHLH-PASスーパーファミリー]]に属している<ref name=Kewley2004><pubmed>14643885</pubmed></ref>。PASドメイン自身は約70アミノ酸からなるモジュールであり、タンパク質間相互作用(特に二量体形成)のプラットフォームとして機能するだけでなく、[[ヘム]]、[[フラビン]]、低分子化合物などの様々な[[リガンド]]や[[補因子]]を結合することで、外部シグナルや細胞内環境の変化を感知するセンサーとしての役割も担う<ref name=Taylor1999><pubmed>10357859</pubmed></ref><ref name=Gilles-Gonzalez2005><pubmed>15598487</pubmed></ref>。
 神経型PASドメインタンパク質 (neuronal PAS domain protein; NPAS)ファミリーは、進化的に保存された[[転写因子]]の一群であり、その構造的特徴としてN末端側に[[塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックスドメイン|塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス(basic Helix-Loop-Helix, bHLH)ドメイン]]、それに続いて2つの[[Per-ARNT-Simドメイン|Per-ARNT-Sim (PAS)ドメイン]]を持つ<ref name=Gu2000><pubmed>10836146</pubmed></ref>('''図1''')。これらのタンパク質は、環境中の化学物質応答([[ダイオキシン]]応答における[[aryl hydrocarbon receptor]], [[AhR]])、細胞の低酸素応答([[低酸素応答因子]], [[hypoxia-inducible factor]], [[HIF]])、[[概日リズム]]の制御([[circadian locomotor output cycles kaput]], [[CLOCK]][[brain and muscle ARNT-like 1]], [[BMAL1]])、[[神経発生]]など、多様な生物学的プロセスを制御する広範な[[bHLH-PASスーパーファミリー]]に属している<ref name=Kewley2004><pubmed>14643885</pubmed></ref>。PASドメイン自身は約70アミノ酸からなるモジュールであり、タンパク質間相互作用(特に二量体形成)のプラットフォームとして機能するだけでなく、[[ヘム]]、[[フラビン]]、低分子化合物などの様々な[[リガンド]]や[[補因子]]を結合することで、外部シグナルや細胞内環境の変化を感知するセンサーとしての役割も担う<ref name=Taylor1999><pubmed>10357859</pubmed></ref><ref name=Gilles-Gonzalez2005><pubmed>15598487</pubmed></ref>。


 NPASファミリーに属する最初のメンバーは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて同定された。[[NPAS1]]は、低酸素応答転写因子HIFファミリー、特に[[HIF1α]]や[[HIF2α]]と相同性を持ち、当初は[[HIF3α]]のアイソフォーム([[inhibitory PAS domain protein]], [[IPAS]])として報告された<ref name=Hogenesch1997><pubmed>9079689</pubmed></ref><ref name=Makino2002><pubmed>12119283</pubmed></ref>。[[NPAS2]](別名[[members of PAS superfamily 4]], [[MOP4]])は、概日リズムの中核因子であるCLOCKとの高い相同性から発見され、哺乳類の概日時計におけるCLOCKの機能的パラログとして同定された<ref name=Hogenesch1997><pubmed>9079689</pubmed></ref><ref name=Reick2001><pubmed>11441147</pubmed></ref>。その後、[[NPAS3]](別名[[MOP6]])が脳での発現パターンと神経発生における潜在的な役割に基づいてクローニングされ<ref name=Zhou1997><pubmed>9012850</pubmed></ref><ref name=Kamnasaran2003><pubmed>12746393</pubmed></ref>、[[NPAS4]](別名[[MOP8]], [[NXF]], [[Le-PAS]])は、神経細胞の活動、特に[[脱分極]]や[[カルシウム]]流入に応答して迅速かつ一過的に発現が誘導される[[最初期遺伝子]] ([[immediate early gene]], [[IEG]])として、複数の研究グループによって独立に同定された<ref name=Ooe2004><pubmed>14701734</pubmed></ref><ref name=Moser2004><pubmed>15363889</pubmed></ref><ref name=Shamloo2006><pubmed>17156197</pubmed></ref>。
 NPASファミリーに属する最初のメンバーは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて同定された。[[NPAS1]]は、低酸素応答転写因子HIFファミリー、特に[[HIF1α]]や[[HIF2α]]と相同性を持ち、当初は[[HIF3α]]のアイソフォームである[[inhibitory PAS domain protein]] ([[IPAS]])として報告された<ref name=Hogenesch1997><pubmed>9079689</pubmed></ref><ref name=Makino2002><pubmed>12119283</pubmed></ref>。[[NPAS2]](別名[[members of PAS superfamily 4]], [[MOP4]])は、概日リズムの中核因子であるCLOCKとの高い相同性から発見され、哺乳類の概日時計におけるCLOCKの機能的パラログとして同定された<ref name=Hogenesch1997><pubmed>9079689</pubmed></ref><ref name=Reick2001><pubmed>11441147</pubmed></ref>。その後、[[NPAS3]](別名[[MOP6]])が脳での発現パターンと神経発生における潜在的な役割に基づいてクローニングされ<ref name=Zhou1997><pubmed>9012850</pubmed></ref><ref name=Kamnasaran2003><pubmed>12746393</pubmed></ref>、[[NPAS4]](別名[[MOP8]], [[NXF]], [[Le-PAS]])は、神経細胞の活動、特に[[脱分極]]や[[カルシウム]]流入に応答して迅速かつ一過的に発現が誘導される[[最初期遺伝子]] ([[immediate early gene]], [[IEG]])として、複数の研究グループによって独立に同定された<ref name=Ooe2004><pubmed>14701734</pubmed></ref><ref name=Moser2004><pubmed>15363889</pubmed></ref><ref name=Shamloo2006><pubmed>17156197</pubmed></ref>。


 これらの発見とそれに続く研究により、NPASファミリーが神経系の発生、[[シナプス機能]]、[[可塑性]]、[[学習]]・[[記憶]]、概日リズム、[[代謝]]調節など、極めて多様な生命現象において重要な役割を担っていることが明らかになった。特にNPAS3とNPAS4は神経系での発現が顕著であることから"neuronal" PAS domain proteinと命名された経緯があるが、NPAS1やNPAS2のように神経系以外の組織([[肝臓]]、[[肺]]など)での機能も報告されている<ref name=Bersten2013><pubmed>24263188</pubmed></ref>。
 これらの発見とそれに続く研究により、NPASファミリーが神経系の発生、[[シナプス機能]]、[[可塑性]]、[[学習]]・[[記憶]]、概日リズム、[[代謝]]調節など、極めて多様な生命現象において重要な役割を担っていることが明らかになった。特にNPAS3とNPAS4は神経系での発現が顕著であることから"neuronal" PAS domain proteinと命名された経緯があるが、NPAS1やNPAS2のように神経系以外の組織([[肝臓]]、[[肺]]など)での機能も報告されている<ref name=Bersten2013><pubmed>24263188</pubmed></ref>。