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==生物における分布== | ==生物における分布== | ||
[[wj:カイメン|カイメン]][[動物]]および[[wj:有櫛動物|有櫛動物]]を除く[[wj:後生動物|後生動物]](metazoa)に存在することが確認されている<ref name=ref5><pubmed>16574373</pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed>22391300</pubmed></ref>。[[哺乳類]]では5種類の関連遺伝子([[Zic1]]-[[Zic5]])が存在する。各動物における[[wj:相同遺伝子|相同遺伝子]]、関連遺伝子を総称してZicファミリーと呼ぶ。[[ショウジョウバエ]]、[[wj:クモ|クモ]]の[[Odd-paired]]、[[線虫]]の[[REF-2]]、[[wj:ホヤ|ホヤ]]の[[macho-1]]もZicファミリーに含まれる。 | |||
==構造== | ==構造== | ||
[[image:zic1.png|thumb|350px|'''図.Zicタンパク質の構造''']] | [[image:zic1.png|thumb|350px|'''図.Zicタンパク質の構造''']] | ||
「[[システイン]]-Xn-システイン-Xn-[[ヒスチジン]]-Xn-ヒスチジン」のモチーフが5回繰り返すC2H2型の[[亜鉛フィンガードメイン|亜鉛(Zn)フィンガードメイン]]は全てのZicファミリータンパク質で保存されている。その他にN末の[[ZOCドメイン|ZOC(Zic-Opa conserved)ドメイン]]と[[ZFNCドメイン|ZFNC(Zinc finger N–terminus conserved)ドメイン]]が多くのZicファミリータンパク質で保存された構造として知られている(図)。各動物グループ(門)間における保存性の差異の存在が提唱されている<ref name=ref5 />。Zicファミリーの亜鉛フィンガードメインは[[Gliファミリー]]および[[Glisファミリー]]のものと類似しており、3グループを総称して、[[Gliスーパーファミリー|Gli(-Glis-Zic)スーパーファミリー]]と呼ぶこともある。 | |||
==分子機能== | ==分子機能== | ||
亜鉛フィンガーを介して[[DNA]] | 亜鉛フィンガーを介して[[DNA]]と結合するほか、転写の[[共役因子]]、[[クロマチン再構成因子]]と結合して、遺伝子の発現を制御することが知られている。転写活性とは関係無しに非対称性分裂を制御する機序も報告されている<ref name=ref7><pubmed>20478299</pubmed></ref>。 | ||
[[hedgehog]]シグナル、[[Wnt]]シグナル、[[TGFβ]]シグナル、[[レチノイン酸]]シグナルなどの生体情報系と関係を持つことが知られている。[[wj:核|核]]に存在する場合が多いが、[[ヒト]][[wj:先天奇形|先天奇形]]の患者由来の変異体の一部は細胞内局在の異常を示す。 | |||
==発生における役割== | ==発生における役割== | ||
===神経系の発生=== | ===神経系の発生=== | ||
====神経誘導==== | ====神経誘導==== | ||
[[アフリカツメガエル|ツメガエル]]の解析から、[[神経誘導]]の際に予定[[神経板]]領域に発現が誘導され、その発現により、神経系細胞への分化が促進されることが分かっている。ホヤや線虫などの動物においても、神経系の細胞が産み出される際に役割を持つことが知られている<ref name=ref8><pubmed>26073017</pubmed></ref>。 | |||
====神経堤細胞の産生==== | ====神経堤細胞の産生==== | ||
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====前脳の発生==== | ====前脳の発生==== | ||
ZIC2が[[全前脳症]]という前脳正中部の形成障害を伴う先天性奇形の原因遺伝子となることが知られている。[[染色体]]異常の無い全前脳症患者のうち、6-8%に[[ZIC2]]の[[点突然変異]]または微小な欠失が認められ、この頻度は別の全前脳症原因遺伝子[[SHH]]に次いで2番目に多い<ref name=ref11><pubmed>21496007</pubmed></ref>。Zic2発現低下マウスでも左右の[[脳室]]の融合が見られる。奇形の発症機序として前脳の形態形成を制御する[[脊索前板]]の発生障害が提唱されている<ref name=ref12><pubmed>18617531</pubmed></ref>。 | |||
====小脳の発生==== | ====小脳の発生==== | ||
ZIC1は[[小脳]] | ZIC1は[[小脳]][[虫部]]の形成障害を主徴とする[[Dandy-Walker症候群]]の原因遺伝子の1つである<ref name=ref13>'''有賀純'''<br>Dandy−Walker症候群<br>''Clinical Neuroscience'', 2015. 33: p. 397-401.</ref>。3q24-25欠失を伴う8症例において、ZIC1と[[ZIC4]]のヘテロ欠失が報告されている。Zic1, Zic2は発生過程の小脳において強い発現があり、それらの機能が失われたマウスでは小脳の形成異常が生じる。成熟個体の小脳では[[顆粒細胞]]にZic1,Zic2の強い発現があり、マーカーとして用いられることもある。 | ||
====神経細胞のネットワーク形成==== | ====神経細胞のネットワーク形成==== | ||
Zic2は腹外側部の[[網膜]][[神経節細胞]]において発現しており、同部位からの[[軸索]]は[[視交叉]]において同側の[[外側膝状体]]へと投射し、それ以外の部位のものは反対側へと投射する。これが深さや奥行きを認知する「[[両眼視]]」機能の成り立ちに必要であることが知られている。同様に脊髄における同側あるいは反対側への投射の選択にもZic2の機能が関与することが報告されている<ref name=ref14><pubmed>24360543</pubmed></ref>。これらの軸索走向の決定にはZic2が[[Eph]]ファミリータンパク質の発現を制御することが部分的に関係するものと考えられている。 | |||
====髄膜の発生==== | ====髄膜の発生==== | ||
Zic1, Zic2, | Zic1, Zic2, [[Zic3]]は髄膜の前駆細胞に発現していることが知られており、Zic2発現低下マウス、Zic1欠失変異・Zic3欠失変異複合変異マウスでは髄膜の発生に異常が生じることが報告されている。これに伴い、[[基底膜]]の断裂が生じること、髄膜から[[分泌]]される分泌因子の発現が低下すること、[[大脳皮質]]の表層に沿った神経細胞の移動に異常が生じることが報告されている<ref name=ref15><pubmed>18448648</pubmed></ref>。 | ||
===神経系以外の発生における役割=== | ===神経系以外の発生における役割=== | ||
====中胚葉の産生==== | ====中胚葉の産生==== | ||
マウス、ツメガエルではZicファミリーが将来、[[体節]]や骨、[[筋肉]]を形成する[[wj:中胚葉|中胚葉]]が形成される時期に発現しており、Zic2発現低下・Zic3欠失複合変異マウスでは初期中胚葉の産生に障害がおきる<ref name=ref16><pubmed>17490632</pubmed></ref>。 | |||
====左右軸決定==== | ====左右軸決定==== | ||
ZIC3は[[wj:内臓左右不定位症|内臓左右不定位症]](ヘテロタキシー、heterotaxy, situs ambiguous)と[[wj:心奇形|心奇形]](一部の[[wj:完全大動脈転位症|完全大動脈転位症]]、[[wj:両大血管右室起始症|両大血管右室起始症]])の原因遺伝子である。散発性のヘテロタキシーの3.7%でZIC3の変異が認められる<ref name=ref17><pubmed>23427188</pubmed></ref>。マウスでは[[wj:左右軸|左右軸]]の決定に重要な役割を果たすと考えられているノード(node)の形成にZic3が必要であることが示されている<ref name=ref18><pubmed>23303524</pubmed></ref>。 | |||
====脊索の形成==== | ====脊索の形成==== | ||
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====骨格系の形態形成==== | ====骨格系の形態形成==== | ||
Zic1、Zic2、Zic3、またはZic5を欠損するマウスでは、[[wj:脊椎|脊椎]]・[[wj:椎弓|椎弓]]、[[wj:肋骨|肋骨]]、[[wj:顎骨|顎骨]]、四肢骨の形態異常が認められる。[[wj:硬骨魚類|硬骨魚類]]の[[wj:尾びれ|尾びれ]]の[[背腹軸]]に沿った非対称性の成り立ちにZic1、Zic4が関わり<ref name=ref24><pubmed>22386310</pubmed></ref>、体節を背側化するスイッチとしての役割を果たす<ref name=ref25><pubmed>23462471</pubmed></ref>。椎弓の形成においてはZic1と[[Gli3]]が協調的に働き、肢芽の形態形成においてはZic3とGli3が拮抗的に働くことが示されている<ref name=ref26><pubmed>22234993</pubmed></ref>。 | |||
====筋肉系の分化==== | ====筋肉系の分化==== | ||
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==高次脳機能の成り立ちにおける役割== | ==高次脳機能の成り立ちにおける役割== | ||
Zic2発現低下マウスでは、新規環境での過活動、認知機能の異常、社会性行動の異常が認められている<ref name=ref29><pubmed>22355535</pubmed></ref> | Zic2発現低下マウスでは、新規環境での過活動、認知機能の異常、社会性行動の異常が認められている<ref name=ref29><pubmed>22355535</pubmed></ref>。一例の[[統合失調症]]の患者から、ZIC2の機能低下型変異が見つかっている<ref name=ref29 />。早期統合失調症患者の[[wj:末梢血|末梢血]][[wj:リンパ球|リンパ球]]でZIC2の発現が低下していることが報告されている<ref name=ref30><pubmed>26733343</pubmed></ref>。また、Zic1発現低下マウス、Zic3欠失マウスでは筋緊張度の低下が表れる。Zic3欠失マウスでは動眼調節機能の異常が認められている<ref name=ref31><pubmed>15450095</pubmed></ref>。ZIC1のC末欠失型変異が[[学習障害]]と関連することも知られている<ref name=ref32><pubmed>26340333</pubmed></ref>。 | ||
==幹細胞制御における役割== | ==幹細胞制御における役割== | ||
===胚性幹細胞の分化制御=== | ===胚性幹細胞の分化制御=== | ||
[[胚性幹細胞]]にZic2, | [[胚性幹細胞]]にZic2, Zic3の発現があり、Zic3は[[wj:内胚葉|内胚葉]]への分化を妨げることにより、多分化能を維持している <ref name=ref33><pubmed> 17267691</pubmed></ref>。また、Zic2は胚性幹細胞からの神経分化に必要であることも示されている<ref name=ref34><pubmed>25699711</pubmed></ref>。 | ||
===ガン幹細胞=== | ===ガン幹細胞=== | ||
[[髄芽細胞腫]]、[[髄膜腫]]、[[wj:脂肪肉腫|脂肪肉腫]]、[[wj:肝細胞癌|肝細胞癌]]、[[wj:胃癌|胃癌]]、[[wj:膵管癌|膵管癌]]、[[wj:肺癌|肺癌]]、[[wj:大腸癌|大腸癌]]、[[wj:子宮頚癌|子宮頚癌]]、[[wj:卵巣癌|卵巣癌]]などにおけるZICファミリーの発現が報告され、腫瘍化または[[wj:腫瘍抑制|腫瘍抑制]]における役割、診断・予後予測への応用が検討されている。肝細胞癌ではZIC2が[[転写因子]][[OCT4]]の発現を活性化して、癌幹細胞の維持に関わることが報告された<ref name=ref35><pubmed>26426078</pubmed></ref>。 | |||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
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|Zic2 | |Zic2 | ||
| | |全前脳症([[HPE5]](<u>編集部コメント:HPE5については本文では触れられていないようです</u>)、前脳正中部形成異常)<br>近視<ref name=ref36><pubmed>23396134</pubmed></ref> <ref name=ref37><pubmed> 24150758</pubmed></ref> | ||
|全前脳症・二分脊椎症様奇形<br>中軸・四肢骨格系形成の異常<br>筋肉発生の異常<br>大脳層構造の異常<br>視交叉での神経走向の異常<br>認知機能・社会行動の異常<br>髄膜の形成不全 | |全前脳症・二分脊椎症様奇形<br>中軸・四肢骨格系形成の異常<br>筋肉発生の異常<br>大脳層構造の異常<br>視交叉での神経走向の異常<br>認知機能・社会行動の異常<br>髄膜の形成不全 | ||
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|内臓左右不定位症<br>(situs ambiguous, heterotaxy)<br> | |内臓左右不定位症<br>(situs ambiguous, heterotaxy)<br> | ||
心奇形(内臓の左右位置異常と関係したもの、完全大動脈転位、両大血管右室起始症など)<br> | 心奇形(内臓の左右位置異常と関係したもの、完全大動脈転位、両大血管右室起始症など)<br> | ||
[[VACTERL症候群]]<u>編集部コメント:VACTERL症候群については本文では触れられていないようです</u>)(脊椎奇形、肛門直腸奇形、心奇形、気管食道瘻、腎奇形、<br>四肢欠陥などが合併する先天奇形)<ref name=ref38><pubmed>26294094</pubmed></ref> | |||
|尾の屈曲、脊椎の形成異常<br>神経管奇形<br>左右軸形成の異常<br>小脳形成の異常<br> | |尾の屈曲、脊椎の形成異常<br>神経管奇形<br>左右軸形成の異常<br>小脳形成の異常<br>[[動眼]]調節機能の異常<br>筋緊張度の低下<br> | ||
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