「カテニン」の版間の差分

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==疾患との関わり==
==疾患との関わり==
以下に挙げた記載は、[[OMIM]]の情報も主要な情報元となっている。
===神経関連疾患===
===神経関連疾患===
 もともと、&delta;–カテニンは[[プレセニリン1]]の相互作用因子の解析から同定された<ref name=ref46 />。[[wj:染色体|染色体]]上の&delta;–カテニン遺伝子座を含む領域の欠損は、[[精神発達遅滞]]を起こすヒト遺伝病の一つである[[ネコ鳴き症候群]]患者に多くみられ、その後の&delta;–カテニンのノックアウトマウスの解析から、&delta;–カテニンはその症候群でみられる精神発達遅滞との関連が示唆された。そのノックアウトマウスでは、[[視覚]]からの刺激に対する[[視覚野]]の応答に障害がみられ、海馬の[[短期増強]]と[[長期増強]]の異常を示す。このノックアウトマウスの発生期のシナプス形成には異常はみられず、生存可能であるが、10週齢になると、大脳皮質のシナプスの密度の減少やシナプスの維持の欠落が見られるようになる。その分子機構はまだ不明であるが、&delta;–カテニンは、シナプスのスパイン構造の維持で機能することで、正常な認知機能やそれに繋がりうる精神発達に寄与すると示唆されている<ref name=ref47><pubmed> 19403811 </pubmed></ref> 。  
 もともと、&delta;–カテニンは[[プレセニリン1]]の相互作用因子の解析から同定された<ref name=ref46 />。[[wj:染色体|染色体]]上の&delta;–カテニン遺伝子座を含む領域の欠損は、[[精神発達遅滞]]を起こすヒト遺伝病の一つである[[ネコ鳴き症候群]]患者に多くみられ、その後の&delta;–カテニンのノックアウトマウスの解析から、&delta;–カテニンはその症候群でみられる精神発達遅滞との関連が示唆された。そのノックアウトマウスでは、[[視覚]]からの刺激に対する[[視覚野]]の応答に障害がみられ、海馬の[[短期増強]]と[[長期増強]]の異常を示す。このノックアウトマウスの発生期のシナプス形成には異常はみられず、生存可能であるが、10週齢になると、大脳皮質のシナプスの密度の減少やシナプスの維持の欠落が見られるようになる。その分子機構はまだ不明であるが、&delta;–カテニンは、シナプスのスパイン構造の維持で機能することで、正常な認知機能やそれに繋がりうる精神発達に寄与すると示唆されている<ref name=ref47><pubmed> 19403811 </pubmed></ref> 。  
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===悪性腫瘍===
===悪性腫瘍===
 カテニン全般的には、神経以外の組織における疾患よりもガンとの関連性がよく議論されている<ref name=ref49><pubmed> 17084354 </pubmed></ref><ref name=ref50><pubmed> 17084354 </pubmed></ref>。以下に挙げた記載は、[[OMIM]]における情報も含まれる。
 カテニン全般的には、神経以外の組織における疾患よりもガンとの関連性がよく議論されている<ref name=ref49><pubmed> 17084354 </pubmed></ref><ref name=ref50><pubmed> 17084354 </pubmed></ref>


====&alpha;–カテニン====
====&alpha;–カテニン====
 (コメントH4:&alpha;-カテニンと悪性腫瘍についての情報を補足いたします。)
 (コメントH4:&alpha;-カテニンと悪性腫瘍についての情報を補足いたします。)
肺や卵巣、前立腺におけるがん細胞では、&alpha;-カテニン遺伝子の変異が見つかっている。また、皮膚由来の扁平上皮組織の悪性腫瘍の患者の半数以上(40検体のうち33検体)では&alpha;-カテニンに対する抗体染色が減少もしくは消失することが報告されている。後に挙げる&beta;-カテニン遺伝子の変異でも悪性腫瘍との関連は示唆されており、&beta;-カテニンの分解の制御の乱れががん化を引き起こすという捉え方がある。それは、大腸がんの細胞で、&beta;-カテニンの分解に関わるAPC遺伝子の変異が見られ、&beta;-カテニンの分解経路の阻害と相関がみられるβ-カテニンの核内局在の増加が観察されていることがそのような捉え方を支持する根拠となっているが、先に挙げた複数のがん組織でみられた&alpha;-カテニンの免疫染色の減少・消失が見られたほとんどのがん細胞では&beta;-カテニンの核内局在の増加は見られないため、&alpha;-カテニンは、&beta;-カテニンの分解の制御とは独立してがん化抑制に寄与しているという解釈がなされる<ref name=ref49><pubmed> 17084354 </pubmed></ref>。
肺や卵巣、前立腺におけるがん細胞では、&alpha;-カテニン遺伝子の変異が見つかっている。また、皮膚由来の扁平上皮組織の悪性腫瘍の患者の半数以上(40検体のうち33検体)では&alpha;-カテニンに対する抗体染色が減少もしくは消失することが報告されている。家族性大腸がんの原因遺伝子であるがん抑制遺伝子APCは、&beta;-カテニンの分解に関わる。それゆえ、大腸がんの細胞では、APCの変異とともに、&beta;-カテニンの分解経路の阻害と相関がみられる&beta;-カテニン遺伝子カテニンの核内局在の増加が観察されている。また、後述するように、&beta;-カテニンのリン酸化とがん化が相関していることを合わせると、&beta;-カテニンの分解の制御の乱れががん化を引き起こすと考えられている。しかし、先に挙げた&alpha;-カテニンの免疫染色の減少・消失が見られたほとんどのがん細胞では&beta;-カテニンの核内局在の増加は見られないため、&alpha;-カテニンは、&beta;-カテニンの分解の制御とは独立してがん化抑制に寄与しているという解釈となっている<ref name=ref49><pubmed> 17084354 </pubmed></ref>。
 加えて、&alpha;-カテニンが発現していない表皮組織の細胞は高い運動性を示したり、移植した状況下では&alpha;-カテニンが発現していないと、それらの細胞では扁平上皮組織の悪性腫瘍細胞と類似した現象として捉えられている上皮間葉転換が起こっていしまうことも報告されている。


 第5染色体の欠損をもつ骨髄白血病患者からの細胞HL–60の解析から、&alpha;E–カテニン遺伝子座の[[メチル化]]と[[ヒストン脱アセチル化]]により、その発現が抑制されないままになることがみられている。この&alpha;E–カテニンの発現が維持されたままの細胞では、細胞増殖の低下やアポトーシスによる細胞死が見られている。また、[[wikipedia:ja:アフリカ系アメリカ人|アフリカ系アメリカ人]]の[[wikipedia:ja:乳がん|乳がん]]患者においても&alpha;E–カテニン遺伝子の中に変異が見つかっている。 
 第5染色体の欠損をもつ骨髄白血病患者からの細胞HL–60の解析から、&alpha;E–カテニン遺伝子座の[[メチル化]]と[[ヒストン脱アセチル化]]により、その発現が抑制されないままになることがみられている。この&alpha;E–カテニンの発現が維持されたままの細胞では、細胞増殖の低下やアポトーシスによる細胞死が見られている。また、[[wikipedia:ja:アフリカ系アメリカ人|アフリカ系アメリカ人]]の[[wikipedia:ja:乳がん|乳がん]]患者においても&alpha;E–カテニン遺伝子の中に変異が見つかっている。 
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